OP'S WEBLOG

@frankandcora.bsky.social

ちょこっとレビュー:『トレーディング・ゲーム 天才トレーダーのクソったれ人生』(ギャリー・スティーヴンソン)

元トレーダーが経済格差問題を語る動画チャンネル『Gary's Economics』で大人気のギャリー・スティーヴンソンの半生記(自伝)。ロンドンの貧困家庭に生まれ、持って生まれた数学の才能と地に足の着いた経済分析を武器に、金融危機に乗じて驚異的な成績を挙げ瞬く間にシティバンクのトップトレーダーになったものの、経済格差の拡大を利用して儲け続ける罪悪感に耐え切れず精神を病み、稼ぎ頭を引き留めようとする銀行の嫌がらせを振り切り退職するまでが描かれている。

 

著者のユニークな所は、その出自と出世のプロセスもあるが、経済格差の継続的拡大という金融経済の致命的な構造問題を見抜いただけではなく、絶え間なく取引を続ける、銀行のいちトレーダーとして実際に驚異的な成果を挙げた点だろう。彼がラッキーだったのは、米系メガバンクであるシティバンクの為替と債券の金利(金利デリバティブ)を扱う部署にいたことで、金融危機による世界的なキャッシュ不足状況下で米ドルの圧倒的な流動性をバックに戦えた事、そして、実体経済を犠牲にして金融経済が膨れ上がる根拠となる、金利を扱えたことだ。一般投資家からは見えづらいが、膨れ上がる金融市場の中核におけるクジラのひとりだったと言える。

一方、現在一般に名が売れている投資家やアナリスト、経済評論家の殆どは、あくまで金融市場の様々な約束や、統計や経験から導き出される過去の規則性の範疇でプレイしているし、「経済格差の継続的拡大」というネガから目をそらすことで飯を食っている。また、「経済格差の継続的拡大」を構造問題として語る者の多くは、それを語る事のみで稼ぐか、稼いでさえいない。

 

ギャリー・スティーヴンソンは、「カネ転がしの額が大きい者ほど得をして、原資がより小さかったり金融投資をしない者ほど金持ちから資産が奪われる」、言い換えると金融経済を拡大させ続けるために実体経済を犠牲にする、低い政策金利が維持されることで大儲けした。そして/しかし今、金融経済が実体経済と乖離し過ぎたことで発生した流動性の過剰が限界に達し、市場金利がどんどん上がり始めている。それでも2026年10月9日現在、株式市場も債券市場も膨張を止めていない。現在株も債券も、市場が馬鹿げたレバレッジで膨れ上がっている最大の原因は「AGIという蜃気楼」であり、それが国債やインフレ率にも影響を与える事で、産業先進国の国家財政も通貨価値も(ドミノ倒しで家計も)圧死する寸前にある。

金融経済はまず貧乏人から資産の収奪を始めて、今まで産業先進国のマジョリティであった中産階級も削りまくり、既に小金持ちクラスにも手をかけている。この「物語」の結末を、ギャリーは「究極の経済格差の永久的な固定化(ごく少数のウルトラリッチ以外の全人類の奴隷化)」と予測しているようだ。僕はそれにほぼ同意するが、既に起こり始めている様に、AIが経済や社会のシステムを食い荒らしたり、経済大国の内戦や世界大戦が世界の「資産」の多くを灰にすることが、経済どころか人間社会を質的に変えてしまうところまでゆく可能性もかなりあると思う。あなたはどうだろうか。